杉並の家
今年で築25年目を迎えるその一戸建の住宅は、杉並の某所、早稲田通りから少し入った静かな住宅街にあります。その家の主は私の古くからの友人S氏のご両親。今まであまり修繕の手を入れないですませてきているせいか、さすがに傷んだところも目立つようになってきていました。そして何よりも物が増え手狭になってしまった事と、老朽化した水まわりを一新したいというご希望から、2階建の1階部分を全面的にリニューアルすることになりました。
インテリアデザインの計画にあたってS氏のご両親からのご要望は『3世代7人の家族が集まることのできる広々とした空間を確保し、老後の暮らしをもっと快適に楽しく過ごせるような住まいにしたい』というものでした。上質な暮らしをローコストで実現するために何度もディスカッションを重ねてプランを絞り込んだ結果、現状ではどう考えても狭い2.5帖の台所と4.5帖の居間に、駐車スペースとして使用していた部分を一部増床し、合せて10.5帖分の広さを確保、ワンルーム化してのLDKとする計画にたどりついたのです。
キッチンは奥様が娘さんやご主人と2人で立っても狭くない充分なスペースを取り、家族や友人が集まる『家庭の中心』としてのコア・スペースとなるように計画されています。またオープンタイプとすることで開放的な空間を、オーダーメイドとすることで使いやすい機能と美しいデザインの両方を確保しています。ダイニングテーブルはリビングとキッチンを仕切るような形で半固定式となっています。食事の支度をしながら家族との会話ができるようにするとともに配膳や調理スペースの一部としても使用できる使いやすいデザインのダイニングです。
また、従来高さが1750㎜しかなかった建具などの開口部を、天井いっぱいまで拡げることで頭上の閉塞感を軽減させています。もともと高くない天井を低く感じさせない効果を得ることができています。全体的な空間のイメージとしては、明るいメイプル系&オフホワイトの色彩計画とシンプルなデティールによってヘルシーで現代的なイメージに仕上がっています。
照明は白熱灯ダウンライトで地明かりを取り、ダイニングテーブル面やキッチンの作業面には集光タイプの器具で必要な照度を与えるという方法を採用しています。ソフトで暖かい明かるさを得ることができているのではないかと思います。
このように住む方とデザイナーが住まいづくりの愉しさを共有し、お互いの信頼関係を築くことで、デザインを犠牲にすることなく工事を進めることが可能となりました。そしてなによりもうれしいのは、S氏のご両親に待望の3世代の家族が集まることのできる理想の空間を実現してさしあげることができたことです。これからもご家族と過ごす時間を大切にして頂きたいと、そしてまだまだ長いこれからの暮らしを大いに愉しんでいただきたいと、心から思う今日この頃です。